<『ひぐらしのなく頃に』小説9>
赤坂壊し編(笑) ~フワラズの勾玉リターンズ~ <2> ここ数ヶ月、赤坂が雛見沢を訪れることはなかった。 妻の雪絵が亡くなって以来、彼は季節ごとに時々梨花を訪れていたのだが。 それがここ半年あまりは、全くなかったのだ。 時々電話をかければ少しは話をしていたようだったが、それも短い時間のもので。 赤坂に嫌われたのか、少なくとも距離を置きたがっているようだと言った梨花は。 にぱ~☆ の梨花スマイルも作ることができなくなるほど、沈んでしまった。 このところは食欲もないし、体調を崩して学校を休むことすらある。 心配した羽入と沙都子が何とか元気付けようとしたが、理由が理由だけにどうすることもできなかった。 「そもそも赤坂さんが気持ちをはっきりさせないのがいけないんですわ。いい加減、梨花の気持ちを考えて下さいましって言って来ます」 梨花が、5度目に学校を休んだ日。 学校で昼ご飯を食べつつ話しているうちに腹が立ってきた沙都子が、ついに赤坂に直談判してくると言い出したのを羽入が止めた。 梨花の気持ちを考えずに勝手なことをしてはダメだとたしなめられながら、沙都子は全く納得していない様子だった。 その日の帰りに、自宅の倉庫小屋近くまで来た時に、羽入がふと言い出したのだ。 「『フワラズの勾玉』を使ってみるのはどうだろう」、と。 あれは無関係の人間に作用するとレナの時みたいに大変な騒ぎになるが、あと一歩のところで成就しない恋愛をかなえるためには最適のアイテムなのだ。 赤坂も梨花も、お互いに相手のことを深く想っていることだけは疑いようがない。 ならば梨花に赤の勾玉を飲ませようかとも考えたのだが、それだと赤坂の本心がつかめない。 そんなものを飲ませなくったって、梨花は赤坂ひとすじなのだ。 ならば、この際勾玉の力を借りてでも、なかなか梨花に気持ちを伝えない赤坂の方に踏み込んでもらうのがいい。 そこまで考えた沙都子の行動は、某エ○ーナル並に早かった(笑) 一昨日のうちに作戦を練り、赤坂を雛見沢に呼び出して赤玉を飲ませる算段を立てた。 しかし、本当に勾玉を飲ませるのは怪し過ぎるし、躊躇される危険も高い。 そこで、おはぎに厄除けの術をかけたということにして、しかも梨花の手作りということで疑いもなく飲み込ませることに成功。 あとは赤坂が梨花に対してどういうストーカー好意……おっと行為を働くのかを見守ればいいだけだ。 「―――鏡の迷宮プロジェクトと違って、今回はこれ以上やることはないですわね。あとはただ見守っているだけでいいのですから」 「あうぅ!! 何を言ってるのですか沙都子! あれを飲んだ人間が、どれだけ理解しがたい行動に出るか分かっているのですか? 邪魔する人間は全て排除してでも相手の気持ちを捉えようとするのですよ! 赤坂が梨花を手に入れようと、とんでもない行動に出る可能性だってあるのです。 っていうか梨花の貞操の危機とかそういうことには考えが及ばないんですか?!!」 「な、な、なんですってぇぇぇーーー!!! そんなの私許しませんことよ、梨花に梨花になんてことを……。あ、赤坂さんに限って、まさかそんなことは」 「沙都子はいまだに汚れてませんのです、それはとてもいいことなのです。でも今回に限ってはその甘さが命取りになりますですよ! 梨花を護りたいならすぐに赤坂を追いかけるのです~!!!」 「褒められてるのかけなされてるのか、非常に気になりますけれども今はそれどころではありませんわね。行きますわよ羽入さん!!!」 「合点承知~なのです!!!」 全力ダッシュで走りだした二人は、職員に図書館内では静かにして下さいと怒鳴られながらも、入り口を飛び出て駆けだした。 夏の太陽が照りつける中を、雛見沢に向かったはずの赤坂を追いかけて。 ―――二人が自転車に飛び乗って村の方に向かったのを、鋭い視線で見つめている人物がいた。 図書館から数十メートル離れた、電話ボックス内にて。 彼は公衆電話の受話器を取ると、カードを入れてボタンを押した。 「……やあ。突然ごめんね。―――うん、私だよ。こっちに来てるんだ。いま興宮」 電話口の向こうで上がる声を聞きながら、少しだけ笑い声を立てる。 「……うん。それで、これからちょっと会いたいんだけれど。訪ねていってもいいかな」 受話器を置くと、彼は電話ボックスを出た。 知らず、口元に笑みが浮かぶ。 ―――――赤坂衛、だった。 続く
by umikobusena
| 2007-07-15 13:19
| 『ひぐらし』小説
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by 蒼衣海子 訪問者数 メモ帳
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