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つないだ手の温もりに、あなたへの想いを。<12>
<『ガ○ダムOO』小説8>
つないだ手の温もりに、あなたへの想いを。

※『OO』ロクティエ戦後捏造小説・続編。
 必ず第1回の注意を参照の上、全てOKの方のみお読み下さい。



<12>
 すぐに、スメラギ氏とフェルトにも挨拶をしに行った。
 スメラギ氏には「もう~よかった~心配したのよぉぉ」とか酒くさい息で散々喚かれて、正直閉口したのだが。
 その酒が私たちへの心配を紛らわすものだって解っていたから、ちっとも怒れなかった。



 その後、シャワーを浴びてから着替えて。
 ふと、艦内の展望デッキへと向かった。
 広い窓から宇宙の暗闇を見つめていると、なぜだかいつも心が落ち着くから。

「―――ティエリア」

 呼ばれて振り向くと、彼がいた。

「……。アレルヤには謝ってきたのか」
「謝ろうとしたけど、鍵開けてくんねえんだよ」
「あなたがイジメ過ぎるからだ」
「アイツいじると面白いからな~」
「ロックオン!!!」
「ハイハイすみません。―――んだよ、アレルヤの肩ばっかり持ちやがって」
「嫉妬ですか」
「うわ。お前、そういうこと言っちゃうんだ……」

 大げさに肩をすくめて見せて、私の隣で窓に背を向ける。
 私はため息を一つついてから、彼に尋ねた。

「―――バレたらどうするつもりだったんだ」
「って、なにが」
「作戦」
「……ああ。パイロットが実はライルでしたって?」
「……リボンズはパイロットを確認したはずだ。双子であることを知っていたかは分からないが……。最初のモニタ映像で気付いていたら、あなたが殺されてしまうところだった」
「ありえないね。だって初見で俺とアイツ見分けられるやつなんていねえもん」
「しかし……」
「たった一人を除いては、な」

 え。
 たった、ひとり……?

 ……それ、って。

「―――そ。おまえ」

 言って、私の頬をその長い指でつついた。

「………わ、たし……」
「ライルに聞いたぜ。初めてアイツに会ったときのこと」

“―――双子だなんて知ってるはずもないのに。僕の顔を蒼い顔して見つめてるだけで、あの子は近寄って来ようともしなかった。―――わかったんだね、兄さんじゃないって”

「―――だって。だって、私は」

 言って、思わず俯いて床を見つめる。
 ……この感情はなんだろう。

「わたしは…… あなたを間違えたりなんてしない。いくら同じ顔だって、同じ声に聞こえたって」

 私はあなたと、あなたじゃないひとを間違えたりなんかしない。なぜなら。


「あなたはひとりしかいない。私が見て、会って……いっしょに、いて。
―――こんな気持ちになる相手なんて。
あなた以外に、いるわけないんだ!」


 哀しくないのに。
 大好きなひとは、ちゃんとここにいてくれるのに。

―――この胸の苦しさは、なに。



 濃くて深い翡翠色の瞳が、じっと私の姿を映していた。
 そこにたたえられた光が、不意にふっと揺らめいて。

「―――ッはは。……なんか先越されちまった気分」

 言うなり腕を掴まれて、ぐっと引き寄せられる。
 そのまま、広い胸の中に閉じ込められてしまって。


「―――そんなお前だから、助けに行ったんだよ。
俺も。
罠だろうが無謀だろうが、殺されるのが分かってようが……何だってな」



 ……こうして、温かいあなたの匂いに包まれていると。
 いつも動揺してしまうはずの私なのに。
 今になって、ようやく言いたかったことを思い出した。

「―――ロックオン」
「なに」
「……言ってなかった。肝心な言葉」
「そういや言ってなかったよ、俺も」
「この間とは、逆になってしまうが」

 一度深呼吸をして、息を整える。
 すっと顔を上げて、翡翠の瞳と間近で視線を絡ませて。
 それからゆっくりと―――言った。


「ただいま、ロックオン」


 彼はいつもの、温かな陽だまりのような笑みを浮かべてくれた。
 私がずっとずっと見たかった、優しい微笑み。


「―――おかえり、ティエリア」


 澄み切った翡翠色が、ゆっくりと近づいてきて。
 私はそっと瞼を閉じる。


 ……大切なものは、いつだって自分のすぐ近くにある。
 簡単なことなのに、それに気付けないひとは多い。
 でも私にはもう解っていた。

 誰よりも大切な仲間たちと。
 温かくて眩しいあなたの微笑みと。

 ―――そして、優しいあなたの柔らかな唇と。


 これ以上のしあわせは大切過ぎて、幸福過ぎて。


もう何一つ、ことばにもならない。



2008/05
End.


***************



 ―――――その頃。

 暗くて広い、無限の宇宙の深遠の。遥か遥か離れた宙域で。
 一つの小型艦が浮いていた。

 先ほどまで乗っていたものより、さらに小型のものだ。
 脱出後に乗り換えたその艦のブリッジに、二人の人影があった。
 緑の髪の少年と、紫の髪の女。

「……やってくれたね―――……」
「まさか、双子だったなんて。個人データを精査しなかった私のミスです」
「いいよ。別に君のせいじゃないって」
「しかし」
「……計画には何ら支障もない。今回はたまたま、楽に太陽炉を手に入れられるかなって思ったのもあるけど。むしろあの子をこっちに引き戻す方がメインだったし」
「仲間を始末すれば、あとはどうにかなるかと思いましたけど」
「あの様子じゃ、例え始末できたとしても逆効果だったと思う。結局処分か、人格の書き換えが必要になっただろうし」

 無感動に言った、ライトグリーンの髪の少年は。
 不意に窓外の漆黒に目を向けた。

「なんにせよ、これからだからね。―――計画はまだ始まったばかりだよ。
 でも確かに」

 無機質に澄んだ紫色の瞳が、冷たくきらりと光る。

「―――この借りは高くつくよ、ティエリア。
せいぜいいまのうちにゆっくり休んでおくといい」


by umikobusena | 2008-07-05 22:20 | OO小説(6作目~10作目)


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