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世界の果てまで、きみと生きる約束を。<9>
<『ガ○ダムOO』小説13>
世界の果てまで、きみと生きる約束を。
~アレティエ(♀)現代版人魚姫パロ~

※『OO』アレ×ティエ(♀)で現代版人魚姫パロ。
 必ず第1回の注意を参照の上、全てOKの方のみお読み下さい。



<9>
―――――天から、光が舞い降りた。


 少なくとも、この時の僕はそう思った。
 満月の光が、突然その強さを増して。
 一瞬で地上と海とを含めた、目の前の世界全体を包み込んでしまったようだった。

 とても瞳を開けていられずに、反射的に瞼を閉じた。
 ついに「そのとき」が来てしまったんだ。
 そしてその瞬間に、彼女が本当に消えてしまうことを悟った。




・・・・・・“満月の夜までに人間になれなければ、私は死んでしまう”―――――。


 ああ、満月が。
 無慈悲な夜の空の支配者が、彼女を連れて行ってしまう。

 僕はそれを本能的に感じ取って。
 知らず、ティエリアの細い身体を強く強く抱き締めた。

 お願いだから消さないでほしい。
 どうか連れて行かないでくれ。


僕がこの世でたったひとり愛した、紫の人魚姫を。


 全身で、彼女の存在すべてをかばうように。
 その残酷な月の光から、ティエリアを護ろうとした。

 瞼を閉じても、差し込む光は意識を真っ白に染めあげていた。
 現実感のない、瞬間のときの流れのなかで。
 僕は彼女の柔らかな温もりだけを感じて、ゆっくりと意識を手放した……。



***************



 ざ……ん……
 ざ……ん………

 静かに響いてくる音で、不意に意識がクリアになる。

 僕を現実の、くらい夜に引き戻したのは。
 漆黒の海に静かに響き続ける、潮騒の音だった。

「……………」

 いったいどれだけの時間、瞳を閉じていたのだろう。
 空を見上げると、あれほど残酷に見えていた丸い月のシルエットは。
 うっすらと霞がかって、少しだけ柔らかくなったような気がした。

 ―――と。
 その途端に気がついた。
 胸の中が、なんだかとても……温かい。

 とっくに冷たくなってしまったはずの。
 白いシーツに包んだ身体が、布を通して確かな温もりを伝えてきていた。

 ティエリアの身体が。

「……ティエ、リア………?」

 怖かった。
 まだ、まだ死んでいないはずだと必死で信じようとしながらも。
 その名を呼んだ途端に事切れてしまわないかと不安だった。

 だから必死に勇気を振り絞って。
 やっとの思いで、彼女の名を紡ぐことができた。

 瞬間。
 ぴくり、と長い睫毛が震えて。
 僕はもう一度、、、それをこの眼に映すことができた。

 ―――――澄んだ鮮やかな深紅の色。
 紅玉の輝きを持つ、その美しい瞳を。

「………。アレル、ヤ……」

 その鮮やかな紅には、ほんの少しだけ涙が滲んで。
 潤んだ瞳に、僕の姿が映っていた。


命の輝きが宿っていた。


 その存在を確かめるように、柔らかい頬に触れた。
 白い肌は、柔らかな温もりを宿して。
 彼女はうっすらと微笑んだ。

「ティエリア…… なんで……?」
「君の、おかげだ……」
「え………」
「君が私を、愛してくれたから」


「人魚はヒトの愛を得て、初めてヒトになることができるんだ」



 言われた途端に、それを思い出す。
 童話の中で、人間の王子を愛した人魚姫は。
 彼と結ばれることなく、海の泡となって消えてしまう―――・・・・・・。

 そうだ。確かそうだった。
 でも、だけど。
 僕は。

「僕が、きみを、、、―――――」

 僕は、ティエリアを愛した。いいや、過去形じゃない。
 愛している。
 今この瞬間にも、ずっとこの紫の人魚姫を愛し続けていた。

「だからきみは……死なずに、すんだの?」
「上手く……動かない」
「―――え、」
「人間というのは……動きづらい身体だな」

 ……我ながら間抜けだと思いつつ、言われて初めて気がついた。

 抱き締めたティエリアの、細くて柔らかい身体。
 それを包んだシーツからわずかに見えていた、紫色の尾がなくなっていた。

 代わりに、眩しいほど白い脚が覗いていた。

「ティエリア―――――。人間に……なれたんだね」
「私が人間になるためには、誰かに愛してもらわなければならなかった」
「じゃぁ、なんで……それを言ってくれなかったの。そうしたらきみは苦しい思いをしなかった。僕だって、こんなに哀しんだりせずにすんだのに……」
「……君の負担に、なりたくなかった」
「そんなの! 僕はきみをそんな風に思ったコトは一度もないよっっ」
「―――それに。愛してくれといって、愛してもらえるものではないだろう。ヒトが人魚を愛することなんて、あるハズがなかった。だから誰も、ヒトにはなれなかった」

 ……あ。
 それは、、、―――――・・・・・・・・・。

「―――けれど、君は。……私を、愛してくれたんだな」
「当たり前、だよ……。だって僕はきっと」


―――きみに出会ったときから、きみのコトが好きだった。



 生きている。
 生きていてくれる。
 最愛の紫の人魚姫は、泡になって消えることはなかった。
 僕は童話の中の王子になんかならない。


きっと自分の命よりも大切なティエリアを。
消えさせたりなんか絶対にしない。


「ずっと……きみのそばにいるよ」

 つややかな紫の髪が、白い肩にかかっていた。
 その髪を優しく梳いて、そっと彼女に笑いかける。

「アレルヤ……」
「約束したでしょう。僕がきみを護るって」

 人間になれた彼女は、もう鮫や海の敵たちに脅かされることはない。
 でもたとえ海だって、陸の上だって。
 それこそ空の彼方でだって。

「―――もう、怖いコトは……ない……? 誰も私を……殺したりしない……?」
「うん。きみを傷つけるモノは、なにひとつだって近づけさせない。二度ときみを怖い目になんか遭わせないから」

 例えこの惑星(ほし)を離れた、はるか宇宙の世界でも。
 僕はきみだけを護り続けるだろう。

「たとえどんな世界でも、必ずきみを護ってみせるよ。ずっと、ずっとそばにいてあげる」
「―――本当、か?」
「うん。約束する。―――だから僕を信じて、ティエリア」
「―――。………分かった―――」

 白く柔らかい、ティエリアの手のひらが。
 そっと僕が伸ばした手を、しっかりと掴んだ。
 痛いくらいにかたく繋いだ指が、この想いが真実であることを伝えている。

 さっきよりもずっと穏やかな、優しい月明かりに照らされて。
 こぼれるように微笑んだティエリアが、紅の瞳を静かに閉じる。


そして僕は、ゆっくりと唇を重ねた。



 この宇宙の果てまでも、どんな場所でも僕はきみを護るから。
 永遠に離れることはない。
 だからきっと、ずっと一緒。

 いつか本当に平和な世界で、真実の幸せを手に入れるその日まで。

 ティエリア、僕はいまきみに誓う。
 この世界にたった一人の奇跡。
 紫の髪と、紅玉の瞳を持つ最愛の人よ。


僕はずっとずっと。
この世界の果てまで、きみとともに生き続けよう―――――。



2008/12
End.


by umikobusena | 2009-01-10 22:20 | OO小説(11作目~)


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